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"To live is to journey, and to journey is to live."

 2006年7月、元日本代表のMF、中田英寿は引退に当たりこんな言葉を残しました。「人生とは旅であり、旅とは人生である」
 この一言はその後多くの人に知られることとなり、道徳の教科書に採用されるなど大きな話題を呼んだと言うのは知る人も多いでしょう。

 人間は長い年月を生きてゆく中で、様々に繰り返す苦楽を味わうのでしょう。苦があれば楽があり、永らく平坦に歩みを進める人間と言うのは殆ど居ないでしょう。ある時は雲ひとつ無い青空の下を颯爽と駆け抜け、またある時は激しい嵐に行く手を阻まれ、またある時は目の前に立ちはだかる巨壁に膝を突き屑折れる。それはさながら果てしない様々な山岳平野を進む「旅」―"Journey"―のように。

 1975年、少年時代から夢を見ていた冒険を成し遂げようと一念発起した19歳の青年が居ました。冒険家、永瀬忠志さんです。食料や飲み水、テントなど、あらゆる必要な物資をたった一台のリアカーに積み込み、日本縦断3200キロの旅はスタートしました。ここから永瀬さんの冒険人生は始まります。

 その後、豪州、アフリカ、韓国、南アメリカ等など、重量200キロあるリアカーを身一つで引いて世界中を歩く事30年。踏破した距離延べ43000キロメートル、およそ地球一周。大学生の青年は50歳となりましたが、それでもリヤカーマンの旅は終わりません。

 自宅に帰って食卓に着くと、偶々テレビが付いていました。南米、アタカマ砂漠をリヤカーを引いて果敢に歩き続ける永瀬さんの姿が映っていました。海抜0メートル、チリ、アントファガスタの町を出発し、灼熱のアタカマの砂漠を進む。砂漠を越えると間もなく広大なアタカマ塩湖が出迎える。乾燥した塩に風で巻き上げられた砂が吹き付けられ、剣山のように硬く尖った地表が行く手を阻む。所々に見受けられるオアシスの水は、飲んでみれば皆塩水。やっとの思いで塩湖を抜けると、目の前に立ちはだかるは壮大なアンデスの山脈。標高4000メートル、富士山より高い天空の世界をひたすら進むその行く手を、高山病が容赦なく襲う。吐き気と眩暈にうなされ朦朧とする中倒れこむ。現地の人々が授けてくれた薬草に助けられ、病苦を乗り切り再び歩みを進める。そして37日間の旅の末、遂にアルゼンチン、ヘネラルグエメスへ到達する…

 旅の最中、永瀬さんを数多くの自然の壮大な壁が待ち受けます。次々に立ちはだかる困難をまた一つ、また一つと越える度に、歓喜と安堵に涙を流し、そして再び歩みを始めます。誰の為でもなく、何の為でもなく、只ひたすら歩き続ける。ヘネラルグエメスへ到着し、ホテルの前で永瀬さんは最後にこんな事を語っていました。

 「何でこんな事をやっているんだろう。楽しくなんて無い、苦しい。辛い。でも終わってしまうと、その時間がいとおしい」

 「人生とは旅であり、旅とは人生である」
 この一言をこれ程愚直なまでに具現する人を、初めて目の当たりにしました。きっと冒険家とは、世界で最も人生を人生たるものとして歩んでいる人々なのでしょう。まだ見ぬ頂を目指して一歩を踏み出し、道なき道を進み、苦を突き抜け、歓喜に涙し、そして再び歩みだす。人の生きるとはかくなるものかと、今日ほど強く胸打たれた日は、未だ嘗て無かったかもしれません。或いは今この時だからこそ、深く心に響いたに違いないのでしょう。
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